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蛭谷和紙

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昨年の6月、川原隆邦さんに和紙の製作をお願いしました。
川原さんは、八尾和紙、五箇山和紙とともに「越中和紙」の名で
国の伝統工芸品に指定されている「蛭谷和紙」の、唯一の後継者です。
富山県伝統的工芸品展や全国伝統的工芸品展での受賞、
日本民藝館展の協会賞受賞、同館での講演会、各地の展示会など、
精力的に活動されています。

私がはじめてその工房を訪れたのは、今から6年前の6月下旬。
その日の蛭谷は真夏のような暑さでした。

川原さんは、冬以外の季節を主に山仕事と畑仕事で過ごします。
原料となる野生の楮を向かいの山から切り出し、
原料となるトロロアオイを畑で育てます。
その他の原材料もすべて自らの手で整えて、冬が来るのを待ちます。
和紙の原料となるトロロアオイは、腐りやすく保存が効かないので、
川原さんの和紙漉きは、気温の低い冬に限られます。

 

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私が和紙の製作をお願いしたのは、その時と同じ6月。
川原さんと相談した結果、製作は冬まで待つことになりました。
食物でさえ旬を失っている現代にあって、
紙をその季節が来るまで待つという楽しみ。贅沢ですね。

そして8ヶ月後。季節は巡り、ようやく手元に届きました。
箱を開けると、懐かしい紙の匂いがしました。

 

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片耳の名刺サイズです。
(耳とは、裁ち落とさずにそのまま残した端の部分のこと)
私はこれまで、和紙も家具も耳付きのものは好きになれませんでした。
クラフト感を演出するために安易に使われることも多いですし、
わざとらしいような、潔くないような、そんなイメージでした。
でも、手漉き和紙ならではの、ひとつとして同じものがない耳の表情は、
裁ち落としてしまうにはあまりにも魅力的です。
名刺のグラフィックデザインをしてくれた市角壮玄さんの提案で、
一辺だけ耳を残してもらうことにしました。

 

我が家の障子も、蛭谷和紙を貼っています。
とても丈夫なので、ほとんど破れることがないのですが、
箒を振り回したりして子ども達が穴を開けると、
川原さんの寡黙な仕事姿が浮かんで、つい真剣になってしまいます。
(すごい気迫で)「あのね。この紙はね。
わしやのお兄ちゃんが一生懸命作ったんだからね。
畑の仕事とか山の仕事とか、大変なんだからね。
水も冷たいし、火だって熱いんだからね。
わかる?この紙はやさしく大切にしてちょうだい。」

もちろん子ども達に細かいことはわかりません。
けれども、あの和紙のお兄ちゃんが作ってるらしい、
どうやら作るのは大変らしい、ということは伝わります。
その後は、障子紙に対して気を配っている様子がうかがえます。
物の背景にある自然の恵みや人の営みに思いを馳せられるか、
その背景にどれだけ思いを寄せられるか、
本当に物を大切にする心は、そこから育つと私は思います。

 

 

ところで、「やぎさんゆうびん」という歌を覚えていますか。
しろやぎさんとくろやぎさんがお手紙を食べてしまう、あの詩です。
娘は今「まどみちお詩集」ブームなのですが、
本を開いて最初の詩が「やぎさんゆうびん」です。

「やぎは紙を食べるの?」

まどみちおさんがあの詩を書いたのは昭和のはじめ。
反芻動物であるやぎは、紙の主成分であるセルロースを分解消化できます。
けれども最近の紙は、化学物質でコーティングされていたり、
体外に排出されない薬品が含まれていて、
やぎが食べると腸閉塞を起こす危険があるそうです。

川原さんの和紙は、蛭谷の山と、蛭谷の畑と、蛭谷の水から作られます。
しろやぎさんとくろやぎさんがお手紙食べても安心ですね。

川原さんの蛭谷和紙は、ワイスワイスのサイトでも買うことができます。
昔ながらの工法についても詳しく紹介されています。

 

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